色素性蕁麻疹(肥満細胞腫・肥満細胞症)

「色素性蕁麻疹」(しきそせいじんましん)は、皮膚への刺激によって蕁麻疹と同じようなかゆみや皮膚の盛り上がった発疹が現れる病気で、また病名に「蕁麻疹」という言葉が入っているため紛らわしいですが、一般的な蕁麻疹とは少しメカニズムや症状が違う病気です。生後1歳までに起こる「幼児型」と、思春期以降に起こる「成人型」の2つに大きく分けられます。

■色素性蕁麻疹の原因
色素性蕁麻疹は、皮膚に肥満細胞(別名;マスト細胞)が過剰に集まってしまうことが原因で起こります。そのため、「肥満細胞症」や「肥満細胞腫」という別名があります。肥満細胞はアレルギー反応を起こす細胞で、刺激を受けるとヒスタミンなどの物質を放出するという性質があります。色素性蕁麻疹の理解には、一般的な蕁麻疹のメカニズムを知っておく必要があります。

●一般的な蕁麻疹の発症メカニズム
一般的な蕁麻疹でも、その発症には肥満細胞がかかわっています。何らかの原因で肥満細胞が刺激を受け、ヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンには毛細血管の壁をゆるめて、血管内から必要な細胞を呼び寄せるという働きがあります。血管の壁がゆるむと、細胞とともに血漿(体液の一種)が染み出てきて、皮膚の内側に溜まっていきます。このため、蕁麻疹では突然に皮膚にかゆみを伴う白~紅色の膨疹(扁平に盛り上がった浮腫、みみず腫れ)が現れます。これは湿疹とは異なり一過性のもので、30分~1日以内にあとかたもなく消えてしまうのが特徴です。一部、血管浮腫という深部で起きる蕁麻疹は腫れが3日間ほど持続しますが、これも蕁麻疹の一種です。

●色素性蕁麻疹の発症メカニズム
先ほど述べたように、色素性蕁麻疹は肥満細胞が異常に増えすぎた病気です。皮膚の下に肥満細胞が多く集まって巣を作ってしまっているため、この部分の皮膚をこすったり、ひっかいたり、入浴して急激な温度変化にさらしただけで、容易に刺激を受けてヒスタミンを放出し、膨疹を作ってしまいます。この反応は同じ場所で何度も起こるため、結果的にメラニンが増加して薄茶色のシミ(斑)になってしまったり、褐色の盛り上がり(結節)や水ぶくれ(水疱)ができてしまったりします。

どこに肥満細胞が増えているのかによって、シミや結節ができる場所や大きさ、個数はまちまちです。なぜこのように肥満細胞が増えてしまうのか、アトピー体質やストレス、食事の影響があるのかは不明です。診断にあたっては、皮膚症状が似ている痒疹(ようしん)、虫刺されによるかぶれ、伝染性膿痂疹(とびひ)、色素失調症などとの違いを見分けることが重要です。

色素性蕁麻疹は生後1歳までに起こる「幼児型」と、思春期以降に起こる「成人型」の2種類に大きく分けられます。以下では、幼児型と成人型それぞれの主な症状と治療法について解説します。

■子供の色素性蕁麻疹(幼児型)の症状と治療
●症状
生後間もなく、いろいろな大きさ(小豆~鶏卵サイズ)の薄茶色のシミが現れます。シミは全身のどこでも出る可能性がありますが、体幹や首に出ることが多く、手のひらや足の裏にはあまり出ないようです。シミは平らか、わずかに盛り上がります。水疱ができることもあります。

このシミの下には肥満細胞の巣がありますので、シミを強くこすると、肥満細胞が刺激されてヒスタミンが放出されます。そうすると、こすった部分が赤く盛り上がり、かゆくなります。毎日の入浴では身体を洗うために皮膚をこすりますし、お湯の温度で皮膚が刺激されますので、症状が気づかれやすい場面です。

色素性蕁麻疹で問題になるのは、この肥満細胞の反応が強く出てしまった場合です。前述した通り、ヒスタミンには血管の壁を広げて細胞や血漿を血管外に出す作用がありますが、この作用が広範囲にわたると、血管から水分が出すぎて血圧が低下してしまいます。これはアナフィラキシーショックという危険な状態です。皮膚の症状とともに、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、動悸、呼吸困難、けいれん、意識消失などが起こった場合は、救急車を呼びましょう。また、このようなことに思い当たるようなら、医師(皮膚科医や小児科医、アレルギー科医など)にその旨を伝えましょう。

●治療
10歳頃までに自然治癒するといわれています。それまでの対策としては、抗ヒスタミン薬の内服薬がメインになります。この薬は肥満細胞からヒスタミンが放出されても、その作用を弱めることができるので、症状が起こりにくくできると考えられます。症状が重い場合は、ステロイド剤の全身投与(内服、注射、点滴)と、足りなくなった水分を補うための輸液を行うことがあります。シミ、すなわち肥満細胞が集まっている巣が一つしかない場合は、その部分を切除する手術により治癒をめざす方法もあります。

■大人の色素性蕁麻疹(成人型)の症状と治療
●症状
思春期以降に起こる成人型の場合は、幼児型よりも皮膚の下で集まっている肥満細胞の数は少ないといわれています。そのため、シミは暗めの薄茶色でほとんど盛り上がらず、幼児型よりもサイズが小さいです。思春期に発症する場合は顔に、青年期では体幹に出やすく、多発することが多いようです。皮膚をこすったときに出る皮膚の症状も、幼児型にくらべて弱いのが特徴です。しかし、入浴などの刺激でアナフィラキシーショックが起きないとは限りませんので、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、頭痛、動悸、呼吸困難、けいれん、意識消失などがあれば、すぐに直ちに救急外来を受診してください。

●治療
成人型では症状は軽めですが、残念ながら自然治癒はあまり期待できません。気長に付き合っていく病気です。抗ヒスタミン薬は効きにくいとされています。紫外線を照射して免疫を調整するナローバンドUVB照射療法なども併用して、症状の改善を目指します。また、ビタミンCの投与やレーザー療法などでシミの色素を薄くする治療を試みる場合もありますが、治療に難渋します。症状が重い時はステロイド剤や輸液などが用いられます。

■色素性蕁麻疹のまとめ
・色素性蕁麻疹は皮膚の下に肥満細胞が増えすぎてしまう病気
・皮膚をこすったときや入浴中に蕁麻疹のような皮膚症状が起きる
・アナフィラキシーショックが起こることもあるので要注意
・小児の場合は10歳までに自然治癒、成人の場合は長く付き合う病気