WEB『日経Goody 』(2015年11月2日掲載)

特集『毛染めによる皮膚トラブル、予防策は?深刻なトラブルを回避するための製品の選び方&使い方』に慶田院長の監修記事が掲載されました。

先日、消費者安全調査委員会は一部の毛染め製品の使用によって頭皮などが腫れ上がったり、かぶれたりする事例が相次いでいることを受けて、原因や再発防止策をまとめた調査報告書を発表しました。問題視されているのはヘアカラーや白髪染めなど、多くの人にとって身近な製品です。実は消費者庁には過去5年間で約1000件の毛染めによる皮膚障害の事例が報告されています。インターネット調査では、50代以上のユーザーの半分以上が1カ月に1回以上の頻度で毛染めを行っており、全体の15%程度が自宅や美容院における毛染めで異常を感じた経験があると回答しました。

そこで、ヘアカラーの利用中に異常を感じたらどうすればよいのか? 肌のトラブルを防ぐための予防策はあるのか? 深刻なトラブルを回避するための方法を、慶田院長が解説しました。

皮膚トラブルの原因になるのは酸化染料
毛染めに使う製品には、医薬部外品である染毛剤や、化粧品である染毛料など、様々な種類がありますが、今回問題視されているヘアカラーや白髪染めは、中でも皮膚炎を起こしやすい酸化染料が主成分の酸化染毛剤に分類されるもので、毛染め効果が2~3カ月と長く、明るい色にも暗い色にも染められる特徴があります。こうした便利さから、毛染め製品の中で最も広く利用されています。
酸化染料の役割を果たす代表的な物質には、パラフェニレンジアミン、メタアミノフェノール、パラアミノフェノール、トルエン-2、5-ジアミンなどがあり、今回の調査報告書では、これらの物質すべてが皮膚トラブルの原因になり得るとしています。

酸化染毛剤の使用による皮膚疾患は、誰にでも起こる可能性がある「刺激性接触皮膚炎」と、アレルギー反応として症状が現れる「アレルギー性接触皮膚炎」「アナフィラキシー」に分類されます。
刺激性接触皮膚炎は、もともと皮膚のバリア機能が乾燥などにより低下している場合や、皮膚に傷がある場合に生じ易くなります。症状は、染毛剤が接触した部位に痛み、かゆみ、発赤、水疱、腫れなどが生じます。アレルギー性接触皮膚炎でも同様に接触部位に症状が出ますが、原因物質に対する抗体が出来てしまったことによる遅延型アレルギーなので、一度感作が成立するとその後は毎回出現します。また症状が重くなると、染毛剤が接触していない部位にも症状が及ぶこともあります。
アレルギー性接触皮膚炎は繰り返し原因物質に触れることで、身体の中に原因物質に対する抗体が出来てしまったことによる遅延型アレルギーなので、一度感作が成立するとその後は毎回出現します。それまで異常を感じなかった人でも突然発症することがあります。症状が重い場合や、治療開始が遅れた場合には、治療に1カ月以上かかり、日常生活に大きな支障をきたすこともあるのです。

一方、アナフィラキシーは染毛剤の接触後から短時間のうちに、じんましんの症状に加え、息切れや咳、動悸、血圧の低下、めまい、腹痛、嘔吐などの症状が現れます。皮膚症状は接触部位以外の箇所にも現れることがあり、重篤な症状に発展する可能性があり危険です。
そのため、酸化染毛剤の使用中に異常を感じたら即座に洗い流し、接触アレルギーの感作(同じ抗原の再刺激に感じやすい状態になること)が成立した恐れがあるため、二度と使用しないように心がけることが重要です。もしアナフィラキシーの激しい症状が出たら、すぐに救急車を呼んで医療機関で治療を受ける必要があります。

パッチテストでアレルギーの体質をチェック
最近では、染める前に「パッチテスト」を実施することを推奨されています。染毛剤を二の腕や太ももの内側などに塗り、30分後と48時間後の様子を観察します。2日間も続ける必要があるのは、アレルギー性接触皮膚炎が遅延型アレルギー疾患であり、症状が翌日以降に出る可能性が高いため。場合によっては、パッチテストによって、その際に感作されてしまうことがあることも覚えておきましょう。テストによって皮膚炎の症状が確認されたら、その製品は二度と使用しないようにしましょう。
パッチテストは自分で行うことができるますが、大学病院など一部の医療機関でも実施しており、医師の判断を仰ぐこともできます。

安全な非酸化染毛剤を選び頭皮のケアを
ヘアカラーなど酸化染毛剤の使用で異常を感じたり、そもそも利用に抵抗がある場合は、酸化染料を含まない非酸化染毛剤の利用を考えてみては?
具体的には、非酸化染料である、「オハグロ式白髪染め」と呼ばれる製品(「マロンマインドカラー」〔Schwarzkopf & Henkel〕や「ナチュリエ ヘアカラー N」〔アクセーヌ〕など)や、天然の染毛料であるヘナを使った製品があります。
色持ちが1カ月程度と短く、色が黒や茶に限定され、パーマがかかりにくいなどの難点もありますが、比較的安全に使用できるます。ただし、ヘナの使用をうたった染毛剤に酸化染料が含まれていたケースもあるので、成分を問合せなどで確認してから購入しましょう。
どうしても酸化染毛剤を使いたい場合は、美容院で毛染めをしてもらうと、毛髪の根本から数mm離して塗ってもらえるので、自分で塗るよりは皮膚に染毛剤が付着する確率を下げることができます。
ただし、美容院での処置でも、完全に皮膚に付かないように施術することは出来ません。実際、美容院で毛染めをした場合のトラブル事例も多く報告されています。また、肌に異常が出ても、美容師に毛染めを続けるかどうかを聞かれることがあますが、しっかりと毛染めを中断したいと伝えるべきです。
このほか、毛染めによるトラブルを回避するため、普段から頭皮のケアを心がけることも大切。なるべく洗浄力の弱いシャンプーを選び、原液のままでなく、泡立ててから爪を立てずになでるように洗いましょう。乾燥性敏感肌で頭皮に湿疹が出やすい人は、洗浄力の強いラウレス硫酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を含むシャンプーの利用は控えることをおすすめします。
このように、アレルギー症状は突然発症することがあります。毛染めは身だしなみやお洒落として、これほど身近になっているのですから、トラブルに関する知識は備えて起きたいものです。

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